2016年 08月 09日
冒険の旅 5
白バイに伴走されて走る晶太。
(これはこれで、面白い経験ではあるが)
「こんなこと、信じられない。何もしてへんのに」
建物の中に入ると、おまわりさんが5人くらい。
椅子をすすめられて座ると、周りを取り囲まれたような気になる。
ドックドックドック・・・
心音が激しくなる。
緊張の極限。
「実は、家出少年の捜索願いが出ていてね。
申し訳ないんだが、君の名前と住所、電話番号を書いてもらっていいかな?」
言葉はやさしいが、有無を言わさぬ雰囲気。
少年は言われるままに書く。
「生徒手帳かなんか、持ってる?」
「いえ・・・ありません」
身分を証明できるものが何もなかったのに気づいて、青くなる。
(まさか、家に電話したりしないよな・・?
そんなことされたら、親が心配するに決まってる)
「心配しなくていいんだよ。何も悪い事をしたわけじゃないんだから。
堂々としていればいいんだよ」
と、別のおまわりさんが空気をほぐしてくれる。
晶太はちょっと安心して、旅をしていることを話した。
伊丹から来たこと、倉敷にいる兄に会いに行くこと・・・。
どうやら信じてもらえたようであった。
親に電話もしないようだ。よかった。
「じゃあ、気をつけてね」
おまわりさん達に見送られる。
無罪放免。
しかし、時間をロスしてしまった。
迷惑な話だ。
「いや、しかし、びびったなあ!」
ほっとしたとたん、独り言が飛び出す。
「間違いでした、ごめんねとかの言葉もないし、時間取らせて缶ジュースのひとつ
も出ないのかよ?」
文句たらたらの晶太であった(笑)。
○
遅れを取り戻すため懸命にペダルをこいで、岡山の市街を行く。
陽が傾き始めている。
お尻が痛くてたまらない。
太ももが悲鳴を上げている。限界が近い。
だが、急がなくては。
さらに1時間ほどして、やっと倉敷にやって来た。
が、兄貴のいる寮はどこにあるのだろう?
パン屋さんがあったので、菓子パンと飲み物を買って、ついでに道を聞く。
「え、西之浦? ああ~、もっと向こうの方やね。かなりあるよ」
店のおばさんが指さした。
夕陽で赤く照らされた街を、ヘロヘロになりながら進む。
ようやく、その住所にたどり着く。
「K製鉄株式会社 社員寮」と大きな表札があった。
門をくぐると、中は広い。
だだっ広い中に建物が点在する。
「そっちが第二寮、こっちが第三寮・・、兄貴は第七寮か」
陽が沈み、どんどんうす暗くなっていく。
「四、五・・」
ひとつひとつが遠い。くたくたなのに。
「これが六・・・で・・・?」
なぜか、そこが最後で、もう先はない。
「ええ~~? 嘘だろう?」
足を引きずるようにして、自転車を押して戻る。(もう、乗るのもいやだ)
「どこなんだ? 兄貴~~?」
通りかかった人に聞いてみる。
「あ、第七寮はあっち。奥の方だよ」
七だけ、全然ちがう所に建っているのだった。
○
ゴールの建物は、オレンジの暖かい明かりで晶太を迎えてくれた。
静かに自転車を置き、ドアを押す。
「ここが、そうかあ」
清潔感のある、きれいな建物である。
「え~~と、誰に言えばいいのかなあ・・」
ロビーでウロウロしていると、若い男の人が現れて目が合った。
「あ、久保の弟くん?」
それは、兄貴の高校時代の友人で、一緒の会社に入ったAさんだった。
「あ、こんにちは。良かった。兄に会いに来たんです」
Aさんが連絡を取ってくれる。
しばらくして、兄貴がやって来た。
「自転車で来たんか? ようやるなあ。今、許可をもらったから、部屋に泊まって
ええで。明日の仕事、代わってもらったから休みや。倉敷を案内したるわ」
晶太はうれしくて、疲れも忘れて旅の話をした。
途中のトラブルも全て、笑い話になる。
頑張った甲斐があった。
今夜はゆっくり眠れるなあ・・と晶太は心の底から安心したのだった。
めでたし、めでたし。
いや、もう少しつづく
Joy To The World
(これはこれで、面白い経験ではあるが)
「こんなこと、信じられない。何もしてへんのに」
建物の中に入ると、おまわりさんが5人くらい。
椅子をすすめられて座ると、周りを取り囲まれたような気になる。
ドックドックドック・・・
心音が激しくなる。
緊張の極限。
「実は、家出少年の捜索願いが出ていてね。
申し訳ないんだが、君の名前と住所、電話番号を書いてもらっていいかな?」
言葉はやさしいが、有無を言わさぬ雰囲気。
少年は言われるままに書く。
「生徒手帳かなんか、持ってる?」
「いえ・・・ありません」
身分を証明できるものが何もなかったのに気づいて、青くなる。
(まさか、家に電話したりしないよな・・?
そんなことされたら、親が心配するに決まってる)
「心配しなくていいんだよ。何も悪い事をしたわけじゃないんだから。
堂々としていればいいんだよ」
と、別のおまわりさんが空気をほぐしてくれる。
晶太はちょっと安心して、旅をしていることを話した。
伊丹から来たこと、倉敷にいる兄に会いに行くこと・・・。
どうやら信じてもらえたようであった。
親に電話もしないようだ。よかった。
「じゃあ、気をつけてね」
おまわりさん達に見送られる。
無罪放免。
しかし、時間をロスしてしまった。
迷惑な話だ。
「いや、しかし、びびったなあ!」
ほっとしたとたん、独り言が飛び出す。
「間違いでした、ごめんねとかの言葉もないし、時間取らせて缶ジュースのひとつ
も出ないのかよ?」
文句たらたらの晶太であった(笑)。
○
遅れを取り戻すため懸命にペダルをこいで、岡山の市街を行く。
陽が傾き始めている。
お尻が痛くてたまらない。
太ももが悲鳴を上げている。限界が近い。
だが、急がなくては。
さらに1時間ほどして、やっと倉敷にやって来た。
が、兄貴のいる寮はどこにあるのだろう?
パン屋さんがあったので、菓子パンと飲み物を買って、ついでに道を聞く。
「え、西之浦? ああ~、もっと向こうの方やね。かなりあるよ」
店のおばさんが指さした。
夕陽で赤く照らされた街を、ヘロヘロになりながら進む。
ようやく、その住所にたどり着く。
「K製鉄株式会社 社員寮」と大きな表札があった。
門をくぐると、中は広い。
だだっ広い中に建物が点在する。
「そっちが第二寮、こっちが第三寮・・、兄貴は第七寮か」
陽が沈み、どんどんうす暗くなっていく。
「四、五・・」
ひとつひとつが遠い。くたくたなのに。
「これが六・・・で・・・?」
なぜか、そこが最後で、もう先はない。
「ええ~~? 嘘だろう?」
足を引きずるようにして、自転車を押して戻る。(もう、乗るのもいやだ)
「どこなんだ? 兄貴~~?」
通りかかった人に聞いてみる。
「あ、第七寮はあっち。奥の方だよ」
七だけ、全然ちがう所に建っているのだった。
○
ゴールの建物は、オレンジの暖かい明かりで晶太を迎えてくれた。
静かに自転車を置き、ドアを押す。
「ここが、そうかあ」
清潔感のある、きれいな建物である。
「え~~と、誰に言えばいいのかなあ・・」
ロビーでウロウロしていると、若い男の人が現れて目が合った。
「あ、久保の弟くん?」
それは、兄貴の高校時代の友人で、一緒の会社に入ったAさんだった。
「あ、こんにちは。良かった。兄に会いに来たんです」
Aさんが連絡を取ってくれる。
しばらくして、兄貴がやって来た。
「自転車で来たんか? ようやるなあ。今、許可をもらったから、部屋に泊まって
ええで。明日の仕事、代わってもらったから休みや。倉敷を案内したるわ」
晶太はうれしくて、疲れも忘れて旅の話をした。
途中のトラブルも全て、笑い話になる。
頑張った甲斐があった。
今夜はゆっくり眠れるなあ・・と晶太は心の底から安心したのだった。
めでたし、めでたし。
いや、もう少しつづく
Joy To The World
by tobelune
| 2016-08-09 07:28
| 旅るね
|
Comments(0)