冒険の旅 5

白バイに伴走されて走る晶太。
(これはこれで、面白い経験ではあるが)
「こんなこと、信じられない。何もしてへんのに」


建物の中に入ると、おまわりさんが5人くらい。
椅子をすすめられて座ると、周りを取り囲まれたような気になる。
ドックドックドック・・・
心音が激しくなる。
緊張の極限。


「実は、家出少年の捜索願いが出ていてね。
申し訳ないんだが、君の名前と住所、電話番号を書いてもらっていいかな?」
言葉はやさしいが、有無を言わさぬ雰囲気。
少年は言われるままに書く。
「生徒手帳かなんか、持ってる?」
「いえ・・・ありません」
身分を証明できるものが何もなかったのに気づいて、青くなる。
(まさか、家に電話したりしないよな・・?
そんなことされたら、親が心配するに決まってる)


「心配しなくていいんだよ。何も悪い事をしたわけじゃないんだから。
堂々としていればいいんだよ」
と、別のおまわりさんが空気をほぐしてくれる。


晶太はちょっと安心して、旅をしていることを話した。
伊丹から来たこと、倉敷にいる兄に会いに行くこと・・・。
どうやら信じてもらえたようであった。
親に電話もしないようだ。よかった。


「じゃあ、気をつけてね」
おまわりさん達に見送られる。
無罪放免。


しかし、時間をロスしてしまった。
迷惑な話だ。
「いや、しかし、びびったなあ!」
ほっとしたとたん、独り言が飛び出す。
「間違いでした、ごめんねとかの言葉もないし、時間取らせて缶ジュースのひとつ
も出ないのかよ?」
文句たらたらの晶太であった(笑)。





遅れを取り戻すため懸命にペダルをこいで、岡山の市街を行く。
陽が傾き始めている。
お尻が痛くてたまらない。
太ももが悲鳴を上げている。限界が近い。
だが、急がなくては。


さらに1時間ほどして、やっと倉敷にやって来た。
が、兄貴のいる寮はどこにあるのだろう?
パン屋さんがあったので、菓子パンと飲み物を買って、ついでに道を聞く。
「え、西之浦? ああ~、もっと向こうの方やね。かなりあるよ」
店のおばさんが指さした。


夕陽で赤く照らされた街を、ヘロヘロになりながら進む。
ようやく、その住所にたどり着く。
「K製鉄株式会社 社員寮」と大きな表札があった。


門をくぐると、中は広い。
だだっ広い中に建物が点在する。
「そっちが第二寮、こっちが第三寮・・、兄貴は第七寮か」
陽が沈み、どんどんうす暗くなっていく。
「四、五・・」
ひとつひとつが遠い。くたくたなのに。
「これが六・・・で・・・?」
なぜか、そこが最後で、もう先はない。


「ええ~~? 嘘だろう?」
足を引きずるようにして、自転車を押して戻る。(もう、乗るのもいやだ)
「どこなんだ? 兄貴~~?」


通りかかった人に聞いてみる。
「あ、第七寮はあっち。奥の方だよ」
七だけ、全然ちがう所に建っているのだった。





ゴールの建物は、オレンジの暖かい明かりで晶太を迎えてくれた。
静かに自転車を置き、ドアを押す。
「ここが、そうかあ」
清潔感のある、きれいな建物である。
「え~~と、誰に言えばいいのかなあ・・」
ロビーでウロウロしていると、若い男の人が現れて目が合った。
「あ、久保の弟くん?」


それは、兄貴の高校時代の友人で、一緒の会社に入ったAさんだった。
「あ、こんにちは。良かった。兄に会いに来たんです」
Aさんが連絡を取ってくれる。


しばらくして、兄貴がやって来た。
「自転車で来たんか? ようやるなあ。今、許可をもらったから、部屋に泊まって
ええで。明日の仕事、代わってもらったから休みや。倉敷を案内したるわ」
晶太はうれしくて、疲れも忘れて旅の話をした。
途中のトラブルも全て、笑い話になる。


頑張った甲斐があった。
今夜はゆっくり眠れるなあ・・と晶太は心の底から安心したのだった。
めでたし、めでたし。


いや、もう少しつづく






Joy To The World


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by tobelune | 2016-08-09 07:28 | 旅るね | Comments(0)

 空好き、猫好き、星も好き。 絵本画家 久保晶太の日常と制作ウラ話! とべるね画伯も活躍。


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